塚田トオル's Blog

還暦間近のおっさんが綴る雑記録

『疑惑のチャンピオン』

原題『The Program』監督スティーヴン・フリアーズ 2015年
妻がツールドフランス好きで、公開時見に行きたがっていた作品。ツールドフランスでを7連覇したアメリカ人選手、ランス・アームストロングのドーピング疑惑を扱った映画。
ツールドフランスで頭角を現し始めた20代の頃、精巣ガンが見つかるが、脳にも転移がある末期的な状態から、手術と化学療法でガンを克服し、リハビリを積んで、再び自転車競技に復帰したというところからして、かなり非凡な人生だったことが窺える。その後、ツールドフランス7連覇でしこたま稼いだ金を、ガン撲滅チャリティー運動に投じ、自らも活動する。
あまり知らなかったけれど、アメリカでは超有名人の英雄だったらしい。
しかし結局はドーピングの証拠が見つかって、7連覇の偉業もなかったことにされてしまう。ガンの治療研究を進めるチャリティー活動という大きな正義も行ったけれど、その反面、違法なドーピングも当たり前のように行っていたという、文字通り清濁両面を合わせ持つ人物だったようである。ワンマンで王様気取りの振る舞いは、周囲にしてみれば、相当鼻持ちならないものだったようだし、実際、あまり人から好かれはしなかったようだ。
ドーピングがかなり壮絶なのに驚いた。エリスロポエチンは使うわ、ステロイドは使うわ、抜き打ち検査のときには、1リットルぐらいの電解質輸液を一気に絞って身体の中に入れ、血液を薄めて陽性反応を免れる。普段の血液を保存しておいて、検査の前には、それを輸血して身体の中に戻す。多かれ少なかれ、他のチームもこれと似たようなことをやっていたらしいのだが、そこまでしないと勝てない自転車競技って一体何なんだろうと思った。エリスロポエチンなど、日本では人工透析の患者さんの造血に使うような医薬品である。ヨーロッパでは薬局で普通に買えることにもびっくりした。
WOWOWのW座の録画を見たのだが、小山薫堂が、ガン撲滅運動という大きな善の前で、ドーピングという小さな(小さくはないのかも知れないけれど)悪というものはどう考えたらいいのだろう、というような感想を述べているのを聞いて、例えば鼠小僧的な?悪いやつから金を盗んで貧しい人々に分け与えるといった、いわゆる義賊について、どう捉えるのかということに似ているような気がした。